『シャセリオー展』レポート!山田五郎スペシャルトークショーも!

シャセリオー展

掲載記事の展覧会はすでに終了しています

東京上野にある国立西洋美術館で「シャセリオー展」が現在開催中です。
テオドール・シャセリオーはフランスの画家でロマン主義に属します。幼少時代には師匠でもある新古典主義の巨匠ドミニク・アングルから「この子はやがて絵画界のナポレオンになる」と評された天才画家です。37歳という早逝ゆえに作品数は少なく、近年まで正当な評価が遅れたため、日本においては決して高い知名度とは言えません。しかし彼が西洋美術史に与えた影響は大きく、新古典主義からロマン主義、そして写実主義や象徴主義への架け橋を担っています。

テオドール・シャセリオーとは

シャセリオー自画像(会場ポスターより)

シャセリオー自画像(会場ポスターより)

1819年、テオドール・シャセリオーはフランスの植民地であったカリブ海のイスパニョーラ島(現ドミニカ共和国)で産まれました。父はフランス植民地の行政職・母は地主の娘でした。1821年には家族でパリに移住します。
11歳の頃、シャセリオーはアングルに入門し新古典主義の技法を学びます。しかし1834年、師匠のアングルがパリを離れたこともあり、画風はロマン主義派ドラクロワへと傾倒していきます。当時の前衛芸術ともいえるロマン主義は若いシャセリオーにとって魅力的だったということでしょうか。

1840年にシャセリオーはアングルが再会を果たしますが、アングルがドラクロワ(というかロマン主義)を忌み嫌ってたこともあり、方向性の違いで師弟関係は解消されました。ロマン主義運動の時代に身を委ねたシャセリオーの作品には演劇や文学からの影響も見受けられます。彼の憧れは東方におよび、アルジェリア旅行をきっかけに作風はエキゾチックに展開していきます。
こうして様々な影響を受けつつ独自の作風へ昇華していったシャセリオーですが、37歳で急逝してしまいます。シャセリオーの作品は後の時代を担うシャヴァンヌモローの作風に強い影響を与えました。そしてシャヴァンヌらの作品を通じ、ゴーギャンマティスの作品にも反映されていると言われています。

「シャセリオー展」の混雑状況

シャセリオー展会場入口

シャセリオー展会場入口

筆者は土曜日の日中に会場に訪れましたが入場者は少ない印象で、音声ガイドを借りて順路に沿うと、約2時間ほどかけてゆっくり回ることができました。

作品リストは日本語・英語・中国語・韓国語の四ヶ国語に対応、作品解説は日本語と英語で表示されています。音声ガイド(レンタル料金:550円)は編集者で評論家の山田五郎さんです。難解な西洋美術史をわかりやすく解説してくださっており、作品を一層楽しめる内容となっているのでおすすめです。

「シャセリオー展」のみどころ

「マクベス」シャセリオー作(ウィキペディアより)
「マクベス」シャセリオー作(ウィキペディアより)

上述の通りシャセリオーは夭折の画家ということもあり、現存する作品も少なく、また作品も様々な美術館に点在しています。そのため、日本の国立西洋美術館にシャセリオーの作品が100点以上集まるということは、とても貴重なことで本国フランスでもこの規模のシャセリオー展はなかなか開かれないということでした。「サッフォー」や「マクベス」など本物のシャセリオーの作品が一同に見れるまたとない機会こそ一番のみどころなのです。

新古典主義の巨匠アングル、ロマン主義の神様ドラクロワの融合

シャセリオーの絵の特徴のひとつは師匠であるアングルの新古典主義と強く影響を受けたドラクロワのロマン主義を調和させたところにあります。今回の展示では「黒人男性像の習作」や「アクタイオンに驚くディアナ」など相反する二人の巨匠の影響を受けた作品を鑑賞することができます。
会場には師匠であるアングルの作品や影響を受けたドラクロワの作品も展示されており、シャセリオーの作風のルーツも一緒に確認することができます。

シャセリオーの描く女性たち

泉のそばで眠るニンフ(購入のポストカードより)

泉のそばで眠るニンフ(購入のポストカードより)

シャセリオー展の会場には一部赤いカーテンが束ねられている場所があります。
その先には裸婦画「泉に眠るニンフ」が展示されています。美しい曲線の身体にわき毛の描写までされているショッキングな作品は当時パリで一番美しい身体をもつと言われた女優アリス・オジーがモデルとなっています。彼女は奔放で気性の激しい女性で、多くの男が彼女に夢中になりスキャンダルを産み出しています。シャセリオーも彼女と恋仲になり翻弄されます。破局の原因となった作品「16世紀スペイン女性の肖像の模写」はシャセリオーが怒りのあまり作品を傷つけたといういわくつきのものも展覧会で見ることができます。

また、シャセリオー展のポスターにも採用された「カバリュス嬢の肖像」に描かれたマリー=テレーズ・カバリュスは、総裁政府時代のパリの社交界の華だったテレーズ・カバリュスを祖母に持つ、当時のパリで最も美しい女性に数えられた人物です。シャセリオーは肖像画は受注での制作はしておらず、親しい人物のみを描いています。そのためシャセリオーの周囲には自然と美しい女性が集まっていたことが解ります。

シャセリオーと夢の共演

常設展よりモロー「ピエタ」

常設展よりモロー「ピエタ」

新古典主義とロマン主義の作風を取り入れたシャセリオーはその後の美術史へ影響を与えます。本展にはシャセリオーの影響を受けたシャヴァンヌやモローの作品もあります。特に象徴主義の画家モローはシャセリオーの絵に感銘を受け、学校をやめて隣のアトリエに引っ越してきたほど。展示作品「アポロンとダフネ」ではシャセリオーとモローの作品が並べて展示されており、シャセリオーがモローに与えた影響が大きいことがわかります。シャセリオーの死後モローがシャセリオーを称えて制作した作品「若者と死」は本展の最後を飾っていました。

シャセリオー展に出てくる西洋美術史の用語について

シャセリオーは「一人西洋美術史」と呼ばれるほど、西洋美術史の過渡期の中に身を委ねた画家です。この時期は市民革命によるスポンサー(パトロン)の変化や産業革命による写真の登場など、美術史としてはターニングポイントとなります。シャセリオー展へ行く前に美術史について学んでおくとより楽しむことができます。ここではシャセリオー展で出てくる「新古典主義」「ロマン主義」について簡単に解説します。

新古典主義

古典主義は古代ギリシア・ローマの美術が一番の理想としたものです。14世紀ー16世紀にルネサンスで古典美術を振り返るブームが到来、時期をあけて18世紀ー19世紀に再び古典美術を重視するようになります。この再ブームこそ新古典主義です。
理性や教養を重んじる新古典主義は、普遍性や没個性が好まれます。輪郭線を重視し、遠近法や陰影法を用いた作品こそよい作品と評価されます。また、筆の跡は下品とされ滑らかな着色が特徴です。この新古典主義の巨匠はシャセリオーの師アングルなのです。アングルの「ホメロス礼賛」(展覧会に出品されていません)では左右対称で美しいグラデーションとはっきりした輪郭線は新古典主義を象徴する作品です。

新古典主義(英語:neoclassicism)は、18世紀中頃から19世紀初頭にかけて、西欧で建築・絵画・彫刻など美術分野で支配的となった芸術思潮を指す。それまでの装飾的・官能的なバロック、ロココの流行に対する反発を背景に、より確固とした荘重な様式をもとめて古典古代、とりわけギリシァの芸術が模範とされた。
出展:Wikipedia

ロマン主義

理性や教養を重んじ普遍性を求める新古典主義に対してロマン主義は叙情的で個人の感情や内面を重視します。個性的なものが珍重され、民族性を重視したり、東方のエキゾチックなものに憧れたり方向性は様々です。作風は色やタッチを重要視しており、のちの時代の写実主義や象徴主義につながっていきます。ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」(展覧会に出品されていません)は荒いタッチで時事を描き、自らの感情投影を行っており、ロマン主義の名画といって過言ではありません。

ロマン主義(ロマンしゅぎ、英: Romanticism、仏: Romantisme、独: Romantik、伊: Romanticismo、西: Romanticismo、葡: Romantismo)は、主として18世紀末から19世紀前半にヨーロッパで、その後にヨーロッパの影響を受けた諸地域で起こった精神運動の一つである。それまでの理性偏重、合理主義などに対し感受性や主観に重きをおいた一連の運動であり、古典主義と対をなす。
出展:Wikipedia

シャセリオー展関連イベント「山田五郎スペシャルトークショー」

4月28日にはシャセリオー展でスペシャルナビゲーターを務める山田五郎さんのスペシャルトークショーが開催、筆者も参加してきました。

テオドール・シャセリオーの魅力「シャセリオー展 19世紀フランス・ロマン主義の異才」の楽しみ方と題された今回のトークショーは、スライド映写を利用し、新古典主義とロマン主義の違いやシャセリオーが辿った激動の足跡を「中二病」に例えるなどユーモアを交えつつ、わかりやすく説明してくださいました。
固い美術史を少し砕けてわかりやすく解説した山田さんの話は音声ガイドや公式YouTubeでも楽しめます。

山田五郎
悪意はありません(むしろ敬意)

「シャセリオー展」の公式グッズ

華やかなグッズが多く並びます

華やかなグッズが多く並びます

シャセリオー展では公式グッズが多く販売しており、なかでもコラボグッズが充実した内容となっていました。一部をご紹介します。

主なグッズ一覧

  • 図録 2,700円
  • ポストカード 150円
  • i phone7ケース 2,300円
  • マグネット 450円
  • マルチホルダー 600円
  • A4クリアファイル 400円
  • マルチクリーナー 800円
  • Tシャツ 3000円
  • お香(ESTEBANコラボ) 1,260円
  • 紅茶(コントワー・フランセ・デュ・テコラボ) 1,500円
  • キャンディ(Here Comes the Sunコラボ) 700円
筆者は図録とポストカード、そして紅茶を購入

筆者は図録とポストカード、そして紅茶を購入

西洋美術史が大きく変動する時期を生きた天才シャセリオー。以降、本展のような規模は開催困難だと思われる貴重な展覧会です。そしてその画業は間違いなく今後評価が上がっていくでしょう。シャセリオーのロマンチックな世界観を是非体感してみてください。

「シャセリオー展」チケット / 基本情報

開催期間:2017年2月28日(火)~5月28日(日)
開館時間:9:30~17:30(金曜日は午後8時まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし、3月20日、3月27日、5月1日は開館)、3月21日(火)
会場:国立西洋美術館

観覧料
当日券 前売り券 団体券
一般 1,600円 1,400円 1,400円
大学生 1,200円 1,000円 1,000円
高校生 800円 600円 600円

シャセリオー展 公式サイト
http://www.tbs.co.jp/chasseriau-ten/