『ジャコメッティ展』鑑賞レポート!見どころや混雑状況、公式グッズなど

ジャコメッティ展

国立新美術館での開催はすでに終了しています

2017年6月14日から六本木の国立新美術館で「ジャコメッティ展」が開催されています。
スイス出身のアルベルト・ジャコメッティはフランスで活躍した20世紀を代表する彫刻家です。当時の美術運動(キュビズムやシュルレアリスムなど)の影響を受けつつ、独自のスタイルを開拓した彼の作品はモデルを細く長く引き伸ばしたような衝撃のフォルムが特徴です。
日本で開催される個展としては11年ぶりとなる本展には、初期から晩年までの彫刻、絵画、素描、そして版画作品など約135点が出品予定です。

「ジャコメッティ展」会場の様子と混雑状況

ジャコメッティ展の会場入口

ジャコメッティ展の会場入口

筆者は開催初日の6月14日、お昼頃会場を訪れました。全体的に展示スペースにゆとりがあるせいか混雑している印象はなく、2時間程度かけてゆっくり鑑賞することができました。

作品解説(キャプション)が少なめなので、音声ガイドの利用(レンタル料:550円)は必須かと思います。ナレーターは速水もこみちさん、スペシャルトラックを山田五郎さんが担当されています。山田五郎さんにおいては本展用に自ら原稿を書き下ろしたそうで、難解なジャコメッティの美学について熱く、分かりやすく解説されています。

なお、会場内は作品保護のため室温が21度に設定されていて、床から冷気を出す空調システムとなっています。上着を持参する、サンダル履きは避けるなど多少の防寒対策をおすすめします。

「ジャコメッティ展」の見どころ

会場に入るとまずジャコメッティの代表作「大きな像(女:レオーニ)」1点が来場者を出迎えます。現実でありえないほど細長く引き伸ばされ、針金のようになった女性像は、仄暗い展示室の演出も手伝って幻想的です。
しかし、目を凝らしてみると「細さ」の中に腰のくびれや胸の膨らみなど、人間的な温かみも感じられる作品となっています。

「大きな像(女:レオーニ)」公式の冊子より

「大きな像(女:レオーニ)」公式の冊子より

この作品のモデルはジャコメッティの恋人だったイザベル・デルメールです。ジャコメッティ曰く「みたものをみたままに」制作した結果、非現実的な細長い像ができあがったといいます(マジか!)。
このような作風がいかにして確立されたのか?軌跡を辿るように展示は進んでいきます。

美術運動時代のジャコメッティ

続いてジャコメッティ初期の作品が並びます。
画家であった実父の影響もあり、10代の頃から油絵や彫刻制作を試みるようになります。そして1922年、20歳でパリに出てきたジャコメッティは当時の美術運動キュビスムに傾倒します。会場では石膏で作られた「キュビスム的コンポジションー男」などその影響を受けた作品が展示されています。

1923年、パリで開催された「アフリカ美術とオセアニア美術の展覧会」を訪れたジャコメッティは、原始的な彫刻の数々に感銘します。
展示作品「女=スプーン」ではアフリカ(ダン族)美術の影響を受け、豊穣を象徴するスプーンを、女性の姿に見立てた彫刻を制作しました。自身初となるモニュメンタルな作品と言えます。

「女=スプーン」公式の冊子より

「女=スプーン」公式の冊子より

また、1930年にはサルバドール・ダリアンドレ・ブルトンからシュルレアリスム運動(4年後に決別)に誘われます。
目は窪み、口はあんぐりと開き、まるで蓋骨のような作品「」はシュルレアリスムの表現を取り入れ、またニューギニアのオブジェ「木の鼻を付けられた頭蓋骨」の影響も受けているそうです。

「鼻」公式の冊子より

「鼻」公式の冊子より

この時期のジャコメッティは「熱しやすく冷めやすい」そんな印象を受けました^^;

モデルと向き合うことに注力した作品の数々

1934年、ジャコメッティは作品のモデルと真正面に向き合い、新たな造形を模索しはじめます。そこで生まれたのが親指ほどの小像です。

展示作品「小像(女)」は高さ3.3cm、幅1cm、奥行き1.1cmという非常に小さな作品です。
この頃についてジャコメッティは「見たものを記憶によって作ろうとすると、怖ろしいことに彫刻は小さくなった。それは小さくなければ現実に似ないものだった。それでいて私はこの小ささに反抗した。倦むことなく私は何度も新たに始めたが、数か月後にはいつも同じ地点に達するのだった」と語っています。

「小像(女)」公式の冊子より

「小像(女)」公式の冊子より

1945年頃になると100cm前後の作品が多くなっていきます。冒頭で紹介した「大きな像(女:レオーニ)」はこの頃の作品です。高さ167cmと人間に等しい背丈に対し、幅は19.5cmと狭く細長い人物像です。
ジャコメッティはモデルとの距離感、雰囲気、ひととなりなど人間の本質を作品に取り込むために余計なものを削ぎ落とす手法を選んだ結果、独自の作風が生まれたと言います。
これについて山田五郎さんは「引き算の美」と音声ガイドで謳っておられました。

また同時期、アトリエで自身の作品が並んでいる光景をヒントに「3人の男のグループ(3人の歩く男たち)」を制作します。これまで単体だった人物像を融合させたこの作品はジャコメッティの永続的な探究心を感じざるを得ません。

「3人の男のグループ(3人の歩く男たち)」公式の冊子より

「3人の男のグループ(3人の歩く男たち)」公式の冊子より

1956年にはフランス代表としてヴェネツィア・ビエンナーレ(現代美術の国際美術展覧会)に参加するため10点の女性立像から成る「ヴェネツィアの女」シリーズを制作します。

モデルを前に一つの骨組みと粘土で制作を開始していき、石膏で型を取って鋳造します。そして再度、同じモデル、同じ制作工程を繰り返し「その時々に納得のいく作品」が出来るまで制作することで、様々なバリエーションの「ヴェネツィアの女」が生まれました。

「ヴェネツィアの女」公式の冊子より

「ヴェネツィアの女」公式の冊子より

これは完成を目指すのではなく「試みること」を大事にしたジャコメッティの精神象徴ともいえる作品です。会場では「ヴェネツィアの女」シリーズが9体展示されており、それぞれ番号が付与されています。この番号は制作順ではなく、ジャコメッティ自身が決めたものだそうです。

何故この番号になったのか?実際はどの順序で制作されたのか?思考を巡らせながら鑑賞すると、更に面白味の増す作品だと思います。

日本人の5年間

前述した「ヴェネツィアの女」のように、ジャコメッティのモデルとなる人物は長時間の拘束を余儀なくされます。忍耐強く献身的に努めたモデルは弟のディアゴ、妻アネットなど身内がほとんどでしたが、その中にパリへ留学に来ていた日本人哲学者・矢内原 伊作(やないはら いさく)もいました。

二人は1955年秋に知り合います。翌年、帰国間近の矢内原にスケッチのモデルとなってくれないかとジャコメッティは持ちかけます。矢内原は留学の記念になると軽い気持ちで引き受けましたが、いざ制作に入ると消しては描き、描いては消すの繰り返しで帰国予定を72日間オーバーしてしまったそうです。
それでも満足いかないジャコメッティの求めに、矢内原は帰国後も長期休暇を利用しパリを訪れます。矢内原自身も彼の制作意欲を掻き立てられ、後にジャコメッティに関する書を出版しています。

ジャコメッティ

ジャコメッティ

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矢内 原伊作
みすず書房
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矢内原とジャコメッティが過ごした期間は「日本人の5年間」と呼ばれ、会場では矢内原をモデルとしたスケッチや落書きなどが展示されています。
西洋美術史の彫刻家を夢中にさせたモデルに日本人が関わっていたと知り、なんだか嬉しくなりました。

マーグ財団とジャコメッティの関わり

本展出品のほとんどはマーグ財団美術館の所蔵です。
南仏でリトグラフの刷り師をしていた同財団の創設者エメ・マーグは1945年パリに画廊を開きます。マーグは妻とともにミロ、ブラック、ジャコメッティ、シャガールなどの作家と交流し、美術館創設の礎を築いていきます。
1947年にはジャコメッティの作品を購入し、彼の個展を主催するなど、ジャコメッティとマーグ夫妻は親交を深めていきます。

1964年、現実味を帯びた美術館創設に向けて、ジャコメッティは彫刻35点、素描30点、そして約100点の版画を寄贈します。こうして同美術館は世界3大ジャコメッティコレクションの一角としてフランスのサン・ポール・ドゥ・ヴァンスに設立されました。
なお美術館には「ジャコメッティの庭」と呼ばれる中庭があります。ジャコメッティが晩年、チェース・マンハッタン銀行のために構想した作品を設置するために造られたものだそうです。

会場の終盤ではチェース・マンハッタン銀行に設置予定だった作品「歩く男Ⅰ」、「女性立像Ⅱ」、「大きな頭部」が展示されており、このエリアのみ撮影可能となっています。
いずれの作品もサイズは大きく「歩く男Ⅰ」は高さ183cm幅26cm奥行き95.5cm、「大きな頭部」は高さ95cm幅30cm奥行き30cm、「女性立像Ⅱ」においては高さ276cm幅31cm奥行き58cmという圧巻のスケールです。

撮影可能エリア(展示室14)には「歩く男Ⅰ」、「女性立像Ⅱ」、「大きな頭部」が展示。

撮影可能エリア(展示室14)には「歩く男Ⅰ」、「女性立像Ⅱ」、「大きな頭部」が展示。

※本展の作品は一部、前後期で展示替えがあるのでご注意ください。

前期のみ展示作品(6月14日~7月17日)

出品番号 作品名
57 洗面所に立つアネット
68 葛飾北斎《うばかえとき》模写
70 眠るヤナイハラ
71 ヤナイハラの頭部
74 ヤナイハラの頭部、幾つかの落書き
76 幾つかのヤナイハラの頭部、グラスなど
77 剣を持つ3人の男、男の頭部など
79 肘をつくヤナイハラ
81 ヤナイハラの頭部
83 幾つかの頭部
84 頭部、人物像など
87 4人の人物

後期のみ展示作品(7月19日~9月4日)

出品番号 作品名
69 ヤナイハラの頭部
72 ヤナイハラの頭部
73 ヤナイハラの頭部、落書き
75 斜め横向きのヤナイハラの頭部、幾つかの頭部など
78 4つの頭部と落書き
80 肘をつくヤナイハラ
82 向き合うカップル、男の頭部
85 幾つかのヤナイハラの頭部など
86 ヤナイハラの頭部と幾つかの頭部
88 男の頭部と落書き
92 アトリエの椅子
112 花束

山田五郎氏によるトークイベント「ジャコメッティ展の楽しみ方」:2017.8.2追記

7月26日には音声ガイドのスペシャルトラックを務めた山田五郎氏のトークイベントが開催。筆者も参加しました。

山田氏は、幼少期のジャコメッティが穴蔵にこもる遊びに夢中だったことから「縮み思考」の片鱗がみられたとご指摘。

また、画家としては珍しく「引っ越さない・旅行しない・離婚しない」など、偏執狂的な一面について(ジャコメッティは彫刻以外にも絵画・版画の作品も多い)。

遠近法にとらわれず、記憶や感情を投影した作品は「究極の写実主義的」であることなど。
時折ジョークを交えながらジャコメッティの生涯や人物像についてわかりやすく解説していただきました。

中でも衝撃だったのは、ジャコメッティと妻アネット、そして矢内原伊作の禁断の三角関係についてでした。
あまりに生々しい内容のため詳細は控えますが(汗)矢内原はこれらを手記として残しており、ジャコメッティ研究の上で重要な資料となってるそうです。
なお、手記を出版しようとした矢内原を妻アネットが咎めるという逸話も(そりゃそうだ)。

トーク最後には、執拗に対象と向き合い続けるジャコメッティについて、光の変化をカンバスに取り込もうとした「クロード・モネ」に重ねてお話してくださいました。
セザンヌがモネを評した言葉「モネは目にすぎない、しかし、なんという目だろう!」を引き合いに、ジャコメッティが自身の見えるものをみたままに描く姿も近いものがあると独自の解釈で語られていました。

目からウロコがボロボロ落ちたトークショー。
ジャコメッティについて深く知りえたと同時に美術史の勉強にもなり、有意義な時間を過ごすことができました。

完本 ジャコメッティ手帖 1
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「ジャコメッティ展」公式グッズ

「ジャコメッティ展」特設ショップ

「ジャコメッティ展」特設ショップ

ジャコメッティ展の公式グッズは種類も多く、こだわりを感じるものが多く販売されていました。特にジャコメッティの名前をもじったグッズ、日本酒「ジャ米ッティ」、お茶「ジャコメッティー」、かりんとう「ジャコリントウ」など、思わずクスッとしてしまうお土産に筆者の購買意欲は掻き立てられました。

主なグッズ一覧

  • 図録 2,800円
  • ポストカード 150円
  • テープ(30mm)842円、(50mm)1080円
  • マグネット 450円
  • A4クリアファイル 400円
  • マルチクリーナー 864円
  • Tシャツ 2900円
  • 缶バッジ 250円
  • かりんとう「ジャコリントウ」 700円
  • お茶「ジャコメッティー」 950円
  • 日本酒「ジャ米ッティ」 1300円
筆者はジャコリントウ、ジャ米ッティ、ジャコメッティー、缶バッジ、ポストカードを購入!

筆者はジャコリントウ、ジャ米ッティ、ジャコメッティー、缶バッジ、ポストカードを購入!

20世紀を代表する彫刻家、ジャコメッティの回顧展は見ごたえ充分でした。
飽くなき探求心から生まれた圧倒的な存在感を放つ作品の数々、是非会場で体験してみてください!

「ジャコメッティ展」チケット / 基本情報

開催期間:2017年6月14日(水)~9月4日(月)
開館時間:10:00~18:00 金曜日は20時まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日:毎週火曜日
会場:国立新美術館 企画展示室 1E
※2017年10月愛知県にも巡回します:平成29年10月14日(土)~12月24日(日)豊田市美術館

観覧料
当日券 前売り券 団体券
一般 1,600円 1,400円 1,400円
大学生 1,200円 1,000円 1,000円
高校生 800円 600円 600円

「ジャコメッティ展」公式サイト
http://www.tbs.co.jp/giacometti2017/