『絵巻マニア列伝』展 レポート!混雑状況や公式グッズ情報、マニア分類もしてみたよ!

絵巻マニア列伝

掲載記事の展覧会はすでに終了しています

港区六本木にある「サントリー美術館」は独自の切り口で企画された展覧会が多く、コアな美術ファンに愛されている美術館のひとつです。2017年3月には開館10周年を迎え「美を結ぶ。美をひらく。」をテーマに5つの記念展示が予定されています。
その第一弾として「絵巻マニア列伝」展が現在開催中です。

絵巻マニアのマニアックな嗜好

絵巻における最大の魅力は、絵画の美しさや文学的な価値にあります。現在は美術館などでガラス越しに鑑賞するのみとなってしまいましたが(それでも楽しい!)歴史上の人物たちは実際に絵巻を手取り、広げ、そして夢中になりました。
「絵巻マニア列伝」展では絵巻の内容は元より絵巻をこよなく愛した人たちのマニアックな嗜好にも焦点を当てた一風変わった展覧会となっています。

「絵巻マニア列伝」展の混雑状況

筆者は平日昼にサントリー美術館を訪れましたが混雑もなく、何より展示会場が広いので、いわゆるパーソナルスペースはゆったり確保できる印象です。しかし「絵巻」という小さい絵画の性質上、来場者の多くが時間をかけて鑑賞されるので、人の流れはとても遅いです。音声ガイド利用で順路に沿っていくと、約2時間ほどかかりました。

なお音声ガイドは「機械レンタル」と「アプリ」、2つの利用方法があります(料金はいずれも500円 ※アプリのインストールは無料)。もしスマートフォンをお持ちなら「アプリ」タイプがおすすめです。

ヤマハ「MyGuide」アプリ
Android版ダウンロード
iOS版ダウンロード

アプリをダウンロードし、入口で料金を支払い、QRコードで本展の音声ガイドを取得します。あとは会場で自身のスマートフォンにイヤホンを繋いで視聴するだけです(イヤホンのみのレンタルはないので必ず持参しましょう)。またアプリの利点として、会期中(展示替まで)は何度でも聞く事ができるので、例えば自宅に帰って図録を見ながら再視聴というのも可能です。アプリはwifi環境などで事前にダウンロードしておくと手続きがスムーズですよ。

絵巻マニア分類!

会場は以下のように「絵巻マニア」ごとに章でわかれます。

  • 序    章:後白河院
  • 第1章:花園院
  • 第2章:後崇光院・後花園院父子
  • 第3章:三条西実隆
  • 第4章:足利将軍家
  • 終    章:松平定信

一言で「マニア」といっても彼らの絵巻への愛好意識は様々です。
本記事ではお友達で絵師の「こないさん(Twitterアカウント:@konai1229)」にご同行、ご協力いただき嗜好(タイプ)別にマニア分類してみました。

タイプ1:コレクション型

コレクション型代表・後白河院(画:こないさん)

コレクション型代表・後白河院(画:こないさん)

平安時代に歌謡集「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」を編纂したことで知られる後白河院は文化活動に積極的な人物でした。京都の三十三間堂の名で知られる「蓮華王院(れんげおういん)」に宝蔵をもうけ多様な宝物を秘蔵していました。中でも絵巻物が多く占めており、宮廷儀式や祭礼などを描いた「年中行事絵巻」ほか、多くの絵巻を制作させて収めていたようです。後白河院は自慢のコレクションを源頼朝に見せようとして丁重に断られたというエピソードも文献に残っています。昔からコレクションを自慢したがる人はいたのですね!
展示では「法然上人絵伝」「病草子」「九相図」など後白河院のコレクションを同時に見ることができます。

タイプ2:熱中型

熱中型代表・花園院(画:こないさん)

熱中型代表・花園院(画:こないさん)

花園院は17歳の頃、蓮華王院宝蔵の絵巻を貸与され全てをなげうち興奮しながら見たと自ら記録しています。展示されている花園院直筆の日記「花園院宸記(はなぞのいんしんき)」には「予、幼年の時より絵を好むものなり」と書かれており、その時の興奮状態が日記の筆跡からも伝わってきます。まさか自身の日記が700年後に公開されるとは夢にも思ってもなかったでしょう・・・。
この頃、高階隆兼(たかしなのたかかね)が絵巻の様式を確立しており、絵巻物制作の最盛期とも言えます。展示では高階隆兼様式の代表である「春日権現験記絵」や「石山寺縁起絵巻」などが展示されています。

タイプ3:絵師型

絵師型代表・後花園院とその父後崇光院(画:こないさん)

絵師型代表・後花園院とその父後崇光院(画:こないさん)

後崇光院後花園院は親子で絵巻マニアでした。親子間で絵巻を貸借したり、息子のために絵巻を取り寄せる後崇光院の記録が残っています。今回の展示にもある「玄奘三蔵絵(げんじょうさんぞうえ)」は都に運ばれ後花園院が被見の後、後崇光院にも貸し出しされている記録が残っています。特に息子の後花園院は自らも絵巻を写し、制作していくタイプのマニアで、画技も確かなものだったようで「天性の御器用」と絶賛されるほど。
展示作品の「足引絵」を後崇光院が借りたときには息子の後花園院に「勅筆」での絵巻の転写を所望するほどで、父後崇光院も息子の才能を認めていることがわかります。

タイプ4:プロデュース型

プロデュース型代表・三条西実隆(画:こないさん)

プロデュース型代表・三条西実隆(画:こないさん)

室町時代後期の学者公卿の三条西実隆(さんじょうにしさねたか)は絵巻への愛が展示作品「実隆公記」に記されています。「玄奘三蔵絵」を見たときには目を驚かせ「春日権現験記絵」を見たときには随喜の感涙を流すと感激した気持ちを書き残しています。実隆は絵巻鑑賞に留まらず、自らチーフプロデューサーとして活躍しました。
展示作品「桑実寺縁起絵巻」では詞を後奈良天皇・青蓮院尊鎮・三条西実隆、画を土佐光茂に依頼しプロデュースした作品になっています。

タイプ5:ハンター型

ハンター型代表・足利義尚(画:こないさん)

ハンター型代表・足利義尚(画:こないさん)

足利義尚は室町幕府第9代将軍です。父は銀閣を作ったことで知られる足利義政、母は日本三大悪女の一人といわれる日野富子で、日本史では応仁の乱の中心人物の一人として知られる人物です。父親ゆずりの芸術感性で絵巻を愛し、母親ゆずりの強引さで大名・公家・寺社など多方面に「絵巻狩り」といわんばかりに絵巻の貸出要求を繰り返します。「絵巻狩り」を恐れた公家や寺社は絵巻を所持してないと返答したり早期返却を条件に貸し出したりと、召し上げを警戒されます。
展示では「兼顕卿記」などから足利義尚の絵巻狩りに振り回される周囲の様子を読み取ることができます。

タイプ6:まとめ型

まとめ型代表・松平定信

まとめ型代表・松平定信(画:こないさん)

江戸時代の寛政の改革で有名な松平定信も今回の展示では絵巻マニアとしてとりあげられています。全国の寺社や旧家に伝わる古文化財の調査・研究を行い、文化財図録「集古十種」や図譜「古画類聚」の制作を行い、文化財保護に尽力しました。今回の展示にもある「古画類聚」では、さまざまな絵巻にでてくる人物の服装を並べて描いた章や兵器の章などがあり、「まとめ」の機能を持っています。

このように昔の絵巻マニアには現代の「オタク文化」にも繋がる行動をしている人が多く見受けられ、とても親近感が湧く内容になっています。

そのほか絵巻も名品揃い!

こども向けの「わくわくわーくしーと」は大人でも楽しめます

こども向けの「わくわくわーくしーと」は大人でも楽しめます

展示には上記マニアたちが所望した名品の数々を楽しむことができます。また会場にはこども向けのワークシートが用意されており、絵巻をより楽しむアイテムとして大人も利用できます。出品作品の中から一部をご紹介します。

病草紙

病草紙は病の症状や治療の様子を集めた絵巻です。人間の世界の苦しみを描いていることから六道絵のひとつとも言われています。「不眠の女」では人物のアンニュイな表情や背景の細やかな描写をよみとくことができ、平安文化の傑作とも呼べる作品です。展覧会で出品される病草紙のうち五種類は重要文化財に指定されています(展示替あり)。
病草子の他、屋外にうち捨てられた死体が朽ちていく経過を九段階にわけて描いた「九相図」などのマニアの怖いもの見たさをくすぐる「グロ系絵巻」の展示があります。

春日権現験記絵

春日権現験記は均一な線で描かれ、良質な絵の具を利用し美しい色彩が残っている大和絵で描いた社寺縁起絵巻の代表作です。2017年1月~3月にかけて東京国立博物館で開催された「春日大社 千年の秘宝展」でも注目を集めた展示品のひとつでもあります。

東京国立博物館 特別展『春日大社 千年の至宝』内覧会レポート!
2017年、東京国立博物館で最初に行われる特別展「春日大社 千年の至宝」。一般公開は1月17日ですが一足先に内覧会へ参加いたしました。今回はその模様をレポートします。
展示では重要文化財「石山寺縁起絵巻」や「桑実寺縁起絵巻」など多数の社寺縁起絵巻が展示されており、中には春日権現験記から影響を受けたであろう構図や色彩がみうけられる作品も展示されています。

放屁合戦絵巻

その名の通り木の実を食べ、おならくらべをするという内容の「放屁合戦(ほうひがっせん)絵巻」は、インパクト抜群で実に滑稽です。匂いと勢いを強調した線画は現代のマンガにも通じるものがあります。男子小学生が喜びそうな「おもしろ系絵巻」の展示もみどころのひとつです。

「絵巻マニア列伝」展の公式グッズ

ショップもおしゃれなデザイン

サントリー美術館のミュージアムショップは洗練された雰囲気

絵巻マニア列伝展のグッズは比較的少なく感じました。
シール(1枚400円、2枚700円)、ポストカード(100円)A4クリアファイル(300円)、図録(2,500円)などがありました。
ショップ内には今回の展覧会のグッズの他にサントリー美術館の所蔵品をモチーフとしたグッズも多く、生活に彩りを添えるおしゃれなグッズが多く揃っています。

図録の表紙は巻物を横から見たデザイン

図録の表紙は巻物を横から見たデザイン

「絵巻マニア列伝」展はとてもサントリー美術館らしく、新しい絵巻の楽しみ方ができました。何より当時の絵巻マニアたちが羨ましがるであろう名品の数々に驚きました!
10周年を迎えたサントリー美術館、これからの企画展示も楽しみです。

「絵巻マニア列伝」展 チケット / 基本情報

開催期間:2017年3月29日(水)~2017年5月14日(日)
開館時間:10:00-18:00 (金曜日・土曜日は10:00-20:00)
※入館は閉館30分前まで
※5月2日(火)~5月4日(木)は毎日20:00まで開館
休館日:毎週火曜日  ※5月2日(火)は開館
会場:東京ミッドタウン ガレリア3F

観覧料
当日券 前売り券 団体券
一般 1,300円 1,100円 1,100円
大学生・高校生 1,000円 800円 800円

公式サイト
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2017_2/